ガスパ活動記録(しない)

ツイッターに載せきれない長文とかを投稿するよ

2月某日、ビストロにて

※これはちょっと前にツイッターでした話を元に、物語として再構築したものです。口調が多少違うかもしれません。

 

 

 

「……以上、今日はこれで解散」

たった今終わったのは、調理職人の祭典【マルシェ】の会議である。

しかし……前回の好評を受けて第2回の開催を決めたのだが、どうにも僕はやる気が出ない。主催の僕にやる気がないというのは致命的な問題であるが……

 

「どしたよ王さま~」

まだ会議室に残っていたオーガの大男が話しかけてくる。

「なんか暗い顔だな!」

「見てわかるくらいひどい顔してるか?」

「おう、めんどくせーって顔してる」

「大正解」

ガサツそうな見た目とは裏腹に、人のことをよく見ているのがこいつの良いところだ。だから、普段から割と愚痴を言いやすい相手。

「準備が始まったわけだけど、正直、面倒臭い」

「おいおい、頑張ろうぜ! これはあんたにしかプロデュースできない企画だからよ……大丈夫、やりきったらきっと達成感で満たされるからさ!」

そう言って僕の背を力強く叩き、励ましてから去っていく。

気持ちはありがたいが……もはや達成感を求めるほどの元気も出てこないのが現状である。

彼はいつも明るく、まわりを照らすような存在だ。優しく強く、そして面白い。人望に厚いのも頷ける。そうだ、僕の代わりに彼が【マルシェ】の主催をやってくれれば────

 

「どうしたの、君。いつもよりも悪い顔してるけど」

「普段から悪い顔してるみたいに言うな」

こんな遠慮のない鬱屈した心配の仕方をしてくるのは、古い友人のウェディに決まっていた。

 「彼との話が聞こえてたから、理由はわかってるけどさ……勢いで物事に取り組むからそういうことになるんだよ。君の悪い癖だ」

「いいや、これは僕の美点だね。たまたま今は乗り気じゃなくなっただけだ」

「じゃあいつなら乗り気になるんだい? ビストロだって開けてないくせに」

「……うるさい。嫌なものは嫌なんだよ」

そう言ってそっぽを向く僕。

 

やがて彼の溜息が聞こえた。

「なるほど、いつも以上に今の君は強情らしい────ならば仕方ない、約束しよう。見事に【マルシェ】をやりきったら、僕は君の靴を舐める」

「どうしてその結論になった」

振り返ると、彼はやけに真剣な、それでいて苦悩に満ちた顔をしていた。意味はわからないが。

「いや、僕を下に見ていいっていうアドバンテージを贈ることで、少しでも君のやる気に火をつけられたらと……」

「少しも嬉しくないから。というか靴が汚れる」

「汚れるって酷くないか?」

「お前の発想のほうがよっぽど酷い」

こいつは僕をどんな風に思っているのだろう。一度話し合ったほうがいいかもしれない。

「いいから、今日は帰れよ。あんまり話す気分でもないよ」

ぐいぐいと彼を外に押し出し、ドアを閉める。

決して悪い男ではないのだが、おそらく頭がおかしいのだと思う。どうしてその条件で僕を喜ばせられると思ったのだろう。 思いつくにしても他になにかあるだろうに。

 

「ああ、馬鹿馬鹿しい……」

寝室に行くのも面倒で、ビストロのソファに寝転がる。

僕の特技は、どこでもすぐに眠れること。

 

 

 

とんとん、と優しく肩を叩かれて目を覚ました。

「おはよう。起きた?」

「……おはよう」

目を開けて初めて目に写ったのは、目を見張るようなオーガの美女。(目、が多い。寝ぼけている)

即ち……いや、僕らの関係性はどうでもいい。それより気になるのは、この、店内を満たす甘い香り。そして彼女が着ている汚れたエプロン。

「何か作ってたの? ていうか料理できたんだね」

「人並み程度は出来るわよ……うん、朝ごはんでも作ってあげようと思って、ホットケーキを焼いたの。食べましょう」

慣れた手つきでビストロの食器棚を開けて、食事の準備をしてくれる彼女。

「紅茶も淹れたの。ふふ、大丈夫、ティーポットは2人で1つよ」

小馬鹿にしたような微笑みを向けてくる。以前、2人で行ったティールームで僕が『1人でティーポット1つなんて飲みきれないだろ……』と唖然としていたことを揶揄しているのだろう。1人1つのティーポットを飲みきるのは、マナーどころか常識らしいけれど。

「そりゃあ気の利くことで」

少しむっとして、彼女よりも先にホットケーキを頬張る。普通に美味しくて、小さな反抗心も消えてしまった。

「美味しいよ」

「よかったぁ」

安堵の表情を浮かべてはいるが、彼女は別に自信がなかった訳ではないと思われる。自信がない、ということがそもそも概念として存在しない人なのだ。

「食べ終わったら、片付けはあなたがお願いね」

「わかった」

ホットケーキをぺろりと平らげ、紅茶も十分に楽しんでから片付けを始める。

洗い物はすべてキッチンへ。そのキッチンは……まるで雪化粧をしたかのように白くなっていた。粉まみれのキッチン。小麦粉だろうか。いくらなんでも汚しすぎだろうと思ったが、朝ごはんの件も踏まえて何も言わないことにする。

ここのところキッチン自体まともに使っていなかったため、ほこりを払う意味もこめて入念に磨く。そういえば、いつからビストロを閉店にしたままだっただろう。時間を無為に過ごしていた、ここ数ヶ月。それを清算するかのように丹念に汚れをとる。思い出すのは、ここを舞台とした日々。自分が一番輝いていた時期。

 

「やっぱり、キッチンに向かっているあなたの方があなたらしいわ」

今度は何の含みもない、自然な笑顔を向けてくれる彼女。

「今日来たのもね、最近のあなたが塞ぎこんでいるように見えたからなの。それに、ずっと放っておかれたままのキッチンが寂しそうよ?」

つまるところ、僕がこうやってキッチンに向かい直し、心をこめて綺麗に磨くまでが彼女の狙いだったのだろう。まんまと乗ってしまったようだが、不思議と嫌な感じはしなかった。

「……はいはい、やればいいんだろやれば」

こみ上げる恥ずかしさからか、思わず顔を背ける僕。

「タヤーカは庭から店内まで大掃除! イラーナさんは食材の補充! 久しぶりにやるぞ!」

 

 

 

こうしてみんなから活力をもらった僕だが、久しぶりの開店初日は初めての寝坊で営業を副料理長に丸投げする事態に陥ったりした。さらに【マルシェ】計画も凍結。また秋にでもやろうと思う。

代わりに始めたのは、これまでの【ビストロ ガスパール】を本にする計画。丸2年を超えたウチの歴史、なかなか面白いと思うんだ。

 

もうすぐ春がやってくる。