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調理職人日記 ~やくそう~

 調理職人を支える調理レシピは、ギルドで認可された食材とフライパンを使うことでしか作れない。レシピに則らない料理は、調理職人の料理として認められず、腕を認められることも名声を得ることもない。僕はこの現状に納得がいかないのだ。世界が信じるレシピを、僕が作る新しいレシピで覆してみせる――

 

 

 既存のレシピに手を加えて、さらに美味しい料理を作ることはできる。しかし、調理職人のスキルたる『身体へ影響を及ぼす料理』に昇華することができない、というのがこれまでのレシピ開発の結果である。あらゆる調理食材の組み合わせを試したように思うが、上手く効果が現れなかった。

 最近ではフードペアリングと称して、料理と共に水薬をドリンクとして味わう方法を試したが、これはレシピの改定とは言えないだろう。

 研究の次のステップとして、今度は食材ではない物を料理に組み込んでみることを思いついた。特に試したいのは、料理同様に身体に影響のある食べ物。まず思いついたのは、古来より傷を治すために食されている植物、やくそうだった。

 

 やくそうをまな板に乗せてみる。これどうするんだ。野菜っぽいけど、決して食感は良くないし、そもそも美味しいものでもない。薬効を得るために食すのであって、食事には向いていないのだ。

 薬効といえば、毒を消し去るどくけしそう、麻痺を取り去るまんげつそう、眠りから覚ますめざめの花も似たような植物である。呪文の発達により使われる機会は減っているが、呪文が苦手な者には未だに重宝されているとか。これらの植物――『薬草』を料理に使うとしたら、スパイス的な利用法が妥当だろうか。少なくとも、サラダにして食べたいようなものではない。

 やくそうとどくけしそうはそのまま、まんげつそうの葉、めざめの花の花弁をそれぞれ切りだし、すべて紐でくくってひとまとめにし、ブーケガルニを作る。本来のブーケガルニは数種類のハーブを束ねたもので、スープや煮込み料理のスパイスとして使われる。これは言うならば、冒険者風ブーケガルニだ。

 おおとろの切り身、しゃっきりレタス、びっくりトマトを具材に、ピリからペッパーと冒険者風ブーケガルニで味を整え、仕上げにデリシャスオイルを加えてコトコト煮込む。

 

「あら、今日はまた随分と珍妙なことをしているのですね」

 

 こちらを覗きこんできたのは、コンシェルジュのイラーナさん。僕とイラーナさんとタヤーカちゃん、みんなウェディ。

 

「おー、いつもの『答えは言わないけど失敗を予言するモード』ですか、イラーナさん」

「それはすごく語感が悪いから、他の言い方を考えたほうがいいと思います」

 

『答えは言わないけど失敗を予言するモード』自体は否定しないんだな。ということは今回も効能のある料理にはできていないのだろう。

 

「今回は悪くないと思うんだけどなぁ。やくそうを主体としたブーケガルニ、本当に効果でてない?」

「ええ、全然全く欠片も寸分も治療効果はありません。それどころか、本来のマジックスープとしての効能も失われています」

「そこまで酷いのか。本当、どうしてなんだろうね」

「あなたは一般的な料理の技術を持ち込んでいるにすぎません。調理職人の料理は、そう簡単なものではないのですよ」

 

 イラーナさんはずっとこの調子だ。自分は答えを知っているかのように振る舞うが、ちっとも解決策を教えてくれない。昔から――そう、剣術を教えてくれていた昔からこうだ。僕が気づくまで物事の本質は教えてくれない。おかげさまで修業時代はとても苦労した。彼女に言わせれば、その苦労こそが強くなる秘訣らしいが。

 

「ここのところは料理の勉強をしているようですが、それはまるで見当違い」

「じゃあ何を学ぶべきだと?」

「あなたが自分で至るべき答えなので教えません」

「はいはい、いつも通りね。わかりましたよ」

 

 悪くないアイデアだと思ったけど、冒険者風ブーケガルニ、どうやら失敗のようだ。おやすみなさい。

 

 

調理職人日記 ~やくそうを主体としたブーケガルニの作成~