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調理職人日記 ~エルフの飲み薬~

「いらっしゃい」

「お邪魔します」

 

 本日のお客さんは、魔法使いにして魔法研究家、赤と黒を基調とした現代風のローブを着込み、かわいらしくも理知的な表情を浮かべるエルフの女性。はっきり言って好みのタイプだ。好みだから店に招いたと言っても過言ではない。

 

「お招きありがとうございます」

「はい。とりあえず、カウンター席へどうぞ」

 

 魔法を研究している彼女の最近の関心事は『エルフの飲み薬』であるという。水差しの中身を飲み干せば、たちどころに身体中に魔力がみなぎるという水薬。製法はエルフの上位者しか知り得ないとのことで、世に出回る数は多くはない。その効能の高さと貴重性から、市場では高値で取り引きされている。

 彼女の研究テーマは『エルフの飲み薬の大量生産』。冒険者による魔物の討伐が常態化している現在、魔力回復アイテムの存在価値は大きい。にも関わらず、同系統最高レベルたるエルフの飲み薬が入手困難であるのには理由があると思われる。素材の稀少さ、製作にかかる時間、作り手の不足、そんなところだろうか。その薬品を、製法も知らない個人が大量生産したいと言っている。馬鹿げている。馬鹿げているが、応援するのは面白そうだと感じた。そして、こちらとしてもエルフの飲み薬が大量生産されることで得る旨みがある。

 

「今日は貴女のために、特別なモノを仕入れてきました」

「あら、なんでしょう」

 

 研究者たる彼女への精一杯の応援として、まだ飲んだことがないというエルフの飲み薬を飲ませることから始めた。味を知り、効能を体感するのは研究の足しになるだろうか。僕自身の研究のためにも、味の感想など聞いてみたい。そして何より、美味しく味わってもらいたい。

 調理技術への科学の応用を研究する『分子ガストロノミー』という学問に『フードペアリング』という概念がある。ざっくり言うと、食べ物と飲み物の組み合わせによって双方の美味しさが増すようなペアのことだ。肉料理には赤ワイン、魚料理には白ワインを合わせるというアレだ。

 僕がエルフの飲み薬を試飲した際に感じたのは、土と花の香り、酸味、それと後を引く甘味である。なるほど、これに合わせられる料理といえば――――

 

「どうぞ、バトルステーキとエルフの飲み薬です」

 

 総合的に言って、エルフの飲み薬は赤ワインのようだと僕は感じた。森に暮らすエルフ属らしい、芳醇な自然の息吹を閉じこめた水薬。恐らく、自然の力を借りた魔術が製法に絡んでいるだろう。土の香りはどっしりとしたコクがあり、果実のような甘味は赤ワインのそれより遥かに高貴だ。安易ではあるがよくあるペアリングとして、バトルステーキに赤ワインに似ているエルフの飲み薬を合わせた。

 

「これ、すごく美味しいです。意外と甘いのですね!」

 

 

 彼女は興奮した様子で僕に礼を言い、自身の研究所に帰っていった。大量生産、ばっちり研究してくれよな。

 

 僕も少し前から研究していることがある。調理職人を支える調理レシピは、ギルドで認可された食材、フライパンでしか作ることができない。それ以外はまともな料理として認められず、腕を認められることも名声を得ることもない。しかしギルドはここ数年、新たなレシピを発表することもなく、改善も行っていない。それどころか一皿に費やす食材を減らしておいて「これが一人前だ」と言いきる始末である。

 僕はこの現状を変えたい。世界が信じるレシピを、世界が知らないレシピで覆したい。超えるべきは調理職人の総本山。ならば、食材以外の食料をレシピに組み込む試みなど、序の口もいいところだ。まずはここから考えてみよう。

 

 

調理職人日記 ~エルフの飲み薬を用いたフードペアリングの可能性~